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新潟家庭裁判所 昭和55年(少)447号 決定

少年 Y・N(昭四〇・五・一六生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

新潟保護観察所の長は、環境調整に関し、少年と父親間の意思の疎通を図るとともに、両親の間で少年の教育指導につき十分話し合いの機会を持たせるよう、援助指導の措置を行なうこと。

理由

(非行事実)

少年は、

一  別紙窃盗事実一覧表記載のとおり、昭和五四年五月二一日から昭和五五年一月二五日までの間前後十回にわたり、Bほか八名の所有又は管理にかかる第一種原動機付自転車二台ほか一五点(時価合計一一万六〇〇円位)及び現金一三万七、三〇〇円を窃取した

二  昭和五五年一月二三日午後三時ころ、新潟市○○×丁目××番××号K方六畳茶ノ間において、金品窃取の目的で金庫を物色したが、完全施錠のためその目的を遂げなかつたものである。

(法令の適用)

一の各事実につき 刑法二三五条

二の事実につき 同法二四三条、二三五条

(処遇の理由)

一  少年は、一人娘として育つた母親とその許に婿に入つた父親の間に第一子として生まれた。父が結核のため長期間入院する一方で母が職に就いていたため、幼時主に祖母の手で育てられたが、その後妹二人が生まれたこともあつて、両親ともども祖父母と別居するようになつてからも、祖父母との精神的なつながりをより深く感じながら成長した。小学校時代は、格別の問題行動もなく成績も上位を占めていたが、昭和五三年四月中学校進学後、人並以上の優れた知的能力を有しながら、勉学に対する集中力や持続性がなく成績が低迷するようになり、わがままで見栄を張り自己顕示欲が強い等の問題点が指摘されるようになつた。昭和五四年五月から本件一連の窃盗の非行が始まつたのであるが、当初は機会的なバイク盗、万引の程度であり、同年九月二日バイク盗を犯して補導され、同年十月三〇日当庁において同年七月下旬の万引とともに審判不開始とされてからは、しばらく窃盗の非行は途絶えていた。しかしながらその間にも父親に叱責されては祖母方へ家出することが何度かあり、パーマをかけていた頭髪に染色するなど不良顕示的な傾向も強くなり、同年一二月下旬からさらに窃盗、同未遂の非行を重ねた。これらは、両親に隠して衣服等を買つたり、しだいに級友らから白眼視ないし敬遠されるようになつたのに対し、その気をひくため物を与えたりおごつたりするための小遣銭に窺し、学校を怠休しては空巣狙に好適な人家を物色したうえでの犯行であつて、その手口は積極的な侵入盗にと悪質化している。また、この間友人からの借金が計五万円位に達し、両親に弁済してもらつたこともあつた。昭和五五年三月下旬ころからは、両親の許に寄りつかず主に肩書本籍地の祖母の許に居住していたが、老齢の祖母の監護能力にみるべきものはなく、暴力団との関係もある年上の不良少年のアパートに外泊を重ねて学校をさぼり、スナックでアルバイトなどをして毎日を気ままに送つていた。

二  少年は、父親と祖父母の仲が必ずしもうまく行かず、母親もその間で祖父母の側に立ちがちな感情的葛藤のある家庭環境下で養育された。父親は厳格なしつけをしようとして体罰を加えることもひんぱんであつたが、祖父母と母親は少年を甘やかす一方で父親の態度には批判的であり、家庭の教育方針に一貫したものはなかつた。そのため少年は、わがままで見栄つ張りな性格に育ち、ものの見方、考え方は自分本位かつ傲慢で、ことに母親に対する横柄で見くびつた態度は甚しいものがある。また父親に対しては、酩酊のうえの叱責や有無をいわさぬ体罰を加えられて来たこともあつて、極めて根深い感情的な反発心、対立感情を抱いている。社会的な権威や世間に対する反発心も強いものがあり、外見上派手な服装やヘアスタイルを好み、級友らから白眼視され孤立することを意識していながら、素直な反省の行動を示すことができない。これに対し父親は、少年を離れて見守るとはいいながら、審判に出席せず鑑別所収容中も面会に赴かないなど、決定的場面で責任を逃避する傾向があり、他方で母親は少年の意を迎えるのに懸命なところがうかがわれ、少年、父親及び母親の三者の関係は極めて偏倚的である。少年の非行の原因はすこぶる根深いものがあるといわざるを得ない。

三  これらの諸事情を総合考慮すると、今少年にとつて最も必要なことは、両親との偏倚的な関係を是正するため一時的な冷却期間を置くとともに、不良交友関係を絶たせ、見栄、外見や甘えの通用しない厳しい監督指導の下での規律ある生活を通じて、他人の立場や両親の思いやりを理解する能力と規範意識を身に付けさせるとともに、少なくとも義務教育の課程を履修させることであり、少年の年齢、非行傾向の強さ等に鑑みると、初等少年院に送致することが相当であると考える。また保護観察所においては、この機会を利用して少年と父親の意思の疎通を図るとともに、両親の間で少年の教育指導につき十分話し合いの機会を持たせるよう助言指導することが、少年の仮退院後の非行防止のため極めて重要である。

四  よつて、少年を初等少年院に送致することとし、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条二項、環境調整措置命令につき少年法二四条二項をそれぞれ適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 的場純男)

窃盗事実一覧表

番号

日時(昭和 年)

場所

所有者

(管理者)

被害品

金額(合計)円

昭和五四年五月二一日ころ午前六時ころ

新潟市○○××番地××

A方車庫

第一種原動機付

自転車 一台

三万位

同月二二日ころ午後四時ころ

同市○○××番××号

○○書店前歩道上

C子

第一種原動機付

自転車 一台

七万位

同月二八日ころ

午後一時ころ

同市○○××番地

洋裁付属品店○○屋ことD子方店舗

D子

現金

一万位

同年七月八日ころ午後四時ころ

右同

右同

現金

財布

五万一○○○位

一○○○位

同年一二月二六日ころ午前九時ころ

同市○○×丁目××番×

E方二階洋間

現金

キヤツシユカード 一枚

七万位

昭和五五年一月一〇日ころ午後四時ころ

同市○町××番地×

F方茶ノ間

現金

一○○○

同月一八日ころ午後二時ころ

同市○○×丁目×番××号

G方

電卓 一個

腕時計 一個

スポーツ 一個

バツク 一個

煙草 四個

週刊誌 二冊

五○○○位

三○○○位

二○○○位

六○○

五○○○位

同月二〇日ころ午後四時四〇分ころ

同市○○×丁目×番××号

自動車修理販売業H方事務所

現金

手提金庫 一個

普通預金通帳 二冊

五〇〇〇位

五〇〇〇位

同月二五日ころ午前一一時三〇分ころ

同市○○××番地×

現金

三○○

10

同 日午後一時二〇分ころ

同市○○××番地

○○株式会社新潟店

店長

カセツトテープ 一個

三五○○

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